Propulsion Dynamics - 推進力学
宇宙システムの高機動宇宙空間移動・姿勢変更能力の向上と活動範囲の拡大を実現し、将来の宇宙インフラ基盤を構築していくためには宇宙推進技術の発展が必要不可欠です。高推力推進装置や、マルチモード推進装置等の研究開発と、その推進性能の詳細な評価手法に関する研究開発と軌道上実証に取り組んでいます。
研究概要
Overview
当研究領域では、次世代の宇宙推進システムとされるハイブリッドスラスタおよび多機能デュアルモード推進の概念検討・システム構築・特性評価に関する研究開発を行っています。
内閣府をはじめ、軌道上サービスや軌道間輸送といった新たな宇宙インフラ技術の実現に向けた議論が進む中、低コストかつ高運用性の推進システムの実用化が急務となっています。このような宇宙推進システムの例として、ハイブリッドスラスタが注目されています。ハイブリッドスラスタは、樹脂等の固体燃料と液体または気体酸化剤を用いる低コスト・低爆発性の推進方式です。
当研究領域では、高推力・長時間燃焼が可能なハイブリッドスラスタの研究開発を行うとともに、宇宙空間における推進特性や残推力特性を数値解析および地上燃焼実験により評価しています。また、株式会社ElevationSpaceとの共同研究として、小型高頻度大気圏再突入・回収プラットフォームに用いるハイブリッドスラスタの研究開発にも取り組んでいます。
多機能デュアルモード推進技術は、化学推進と電気推進を組み合わせた次世代の推進システムです。大推力を発生する化学推進と、高比推力の電気推進を1つの推進システムとして統合することで、幅広い推力&比推力レンジをカバーし、効率的な軌道上運用が可能となります。
本研究開発は、学際科学フロンティア研究所の齋藤勇士准教授との学内共同研究として取り組んでいます。
研究事例
Research case
ハイブリッドスラスタの研究開発と残留推力発生メカニズムの解明
本研究では、人工衛星の安全で安定した運用を支えるために、ハイブリッドスラスタが発生する微小な推力の特性を、実験と理論の両面から明らかにすることを目指しています。
ハイブリッドスラスタは、液体や気体の酸化剤と固体燃料を組み合わせた推進装置で、構造が簡単で安全性が高く、低コストという特徴があります。そのため、将来的な宇宙デブリ除去や衛星延命といった軌道上サービス、さらに軌道間・地球‐月輸送などの新しい宇宙インフラを支える候補として注目されています。
しかし、ハイブリッドスラスタを宇宙機に実装するには、主推力だけでなく、燃焼終了後にわずかに残って発生する「残留推力」の性質を正確に理解することが重要です。この残留推力は衛星の姿勢や軌道に影響を与える可能性がありますが、極めて小さいため計測が難しく、その発生メカニズムや影響に関する知見は十分ではありません。
そこで本研究では、微小な推力を高精度に測定できる試験装置を開発し、燃焼試験を通して残留推力の時間変化を詳細に計測します。さらに、その結果をもとに残留推力を再現・予測する解析モデルを構築し、実際のハイブリッドスラスタの宇宙実証データと比較することで、モデルの妥当性を検証します。
将来的には、この解析モデルを発展させ、残留推力が衛星の姿勢や軌道運動に与える影響を評価し、影響を抑える制御手法や軌道設計にも応用することを目指します。こうした取り組みを通じて、より安全で信頼性の高い人工衛星運用に貢献できる知見の蓄積を進めていきます。
軌道上サービス衛星の運用に資する,亜酸化窒素-エタノールを用いたデュアルモードスラスターの多目的最適化
軌道上における宇宙機の多様な制御に柔軟に対応可能な推進技術として、低毒性推進剤を用いたデュアルモードスラスタが注目されています。デュアルモードスラスタは、単一の推進システムにおいて複数の推進モードを切り替えて運用できる点が特徴です。しかし、個々の推進モードの統合手法や、実運用時における推進モード選択を含む制御技術は未だ十分に確立されていません。
当研究領域では、ハイブリッドスラスタシステムに加え、コールドガスジェットや非化学推進系、さらには小型・軽量で高い適用柔軟性を有する低毒推進装置を組合わせた多機能推進システムの確立を目指しています。各推進モードの技術を統合したうえで、宇宙機の軌道上ミッションに応じた推進系運用シナリオの最適化設計手法の構築に取り組んでいます。また、各推進モードにおける長時間運用性能や着火性能について、地上実験による評価・検証を行い、それらの知見を反映したハードウェアシステムの開発を進めています。これらの研究を通じて、宇宙機への実用化に向けた技術基盤の確立を目指しています。