構造動力学

Structural Dynamics

Structural Dynamics - 構造動力学

宇宙システムは時に大型太陽電池パネルや、伸展マスト、展開構造物の搭載が求められます。それらの柔軟構造物の伸展・展開挙動の数値解析と軌道上実証実験を通し、宇宙システムの安全な設計と運用手法の確立、および更なる大型化の可能性の探求に取り組んでいます。

© NASA/JSC

研究概要

Overview

近年、宇宙デブリの増加が問題となり、地球低軌道上の人工衛星は運用終了後に速やかな地球再突入が求められています。積極的な地球再突入手法をもたない人工衛星はミッション終了から地球再突入までに数十年を要することもあります。そのため、当研究領域では大気抵抗を利用して軌道離脱を促進する、膜展開式軌道離脱装置DOM (De-orbit Mechanism) の研究開発と軌道上実証に取り組んでいます。2012年から現在に至るまで、複数のキューブサット衛星、および超小型人工衛星に異なる大きさや仕様のDOMが搭載され、軌道上での膜面展開と短期間での軌道降下・離脱の実証に成功してきています。DOMは株式会社中島田鉄工所との共同研究の成果物です。

DOMに代表される宇宙薄膜構造物は、大気抵抗を利用した軌道降下・離脱に加え、太陽風を利用した惑星間航行や、大型通信アンテナや太陽発電装置などの多機能構造物としての利用価値が高いものです。このような軽量かつ柔軟な膜面に代表される柔軟宇宙構造物は、宇宙空間での運動特性が特徴的であり、軌道上の微小重力環境における動力学の解明や展開挙動の予測が重要な課題となっています。この課題の解決に向け、当研究室では非線形FEM解析による、柔軟構造物の動力学シミュレーション技術の確立に取り組んでいます。数値解析と地上実験、および軌道上実験の結果との比較検証を通して確立された信頼性の高い解析手法に基づき、将来の発展的な大型宇宙構造物の実現に挑戦しています。

研究事例

Research case

膜展開式軌道離脱装置DOM (De-orbit Mechanism) の研究開発

当研究室は、膜展開式軌道離脱装置 DOMの研究開発と軌道上実証に継続的に取り組んできています。DOMは膜のサイズによって複数の種類のモデルが存在します。例えばDOM2500は、一辺が2500mmの正方形膜が搭載されていることを示しています。2017年1月16日に宇宙ステーションから地球周回低軌道に放出されたCubeSat衛星”FREEOM”は、DOM1500の軌道上動作に成功し、22日間という短期間での軌道離脱・地球大気圏突入の記録を打ち立てました。2019年1月18日にイプシロンロケット4号機/JAXA革新的衛星技術実証1号機によって打ち上げられたALE-1にはDOM2500を改造したSDOM (Separable DOM)を搭載し、初期軌道高度約500kmから400kmまでの軌道降下の宇宙実証に成功しました。このミッションは,DOMを主衛星から分離可能なマスト構造物が搭載されており,受動的な軌道遷移手法を提案したものです。この他にも多数の打上げの実績があります。

DOMの軌道上での薄膜構造物の展開方法としては、先駆的研究プロジェクトであるJAXAの小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSで採用された回転による遠心力を利用する回転型展開方式に対し,コンベックステープの歪エネルギーに基づく自己伸展力を利用する非回転型展開方式を採用しています.地上実験と宇宙の両環境において正常な展開動作を確認しています。

当研究では、膜展開式軌道離脱装置 DOMの更なる大型化・軽量化に取り組み、宇宙デブリの除去・低減手法としてのPost-Mission Disposal技術(運用を終了した人工衛星の積極的な軌道離脱技術)の確立と世界標準化を目指します。

柔軟構造物の非線形FEM数値解析による軌道上運動特性の解明

柔軟構造物の微小重力環境下での動力学特性は、地上実験で高精度に評価・再現する事は極めて困難です。地上における1G重力下での宇宙環境試験やパラボリックフライトによる無重力実験では、評価できる寸法に制限があり、大型の柔軟構造物であればあるほど地上実験と宇宙実証時の誤差が大きく、膜面展開やブーム構造物の力学的特徴を捉えるができません。

そこで当研究領域では、非線形FEM数値解析による柔軟構造物の構造動力学モデリング技術の構築と、軌道上運動特性の解明に取り組んでいます。特に膜展開式軌道離脱装置DOMの解析においては、折り畳まれた膜面が自己伸展ブームによって展開する際の挙動の再現と、人工衛星の姿勢運動への影響の解析に力を入れて取り組んでいます。地上および宇宙で観測した展開挙動と解析モデルとの比較検証を通し、信頼性の高い宇宙柔軟構造物の動的特性のモデリング手法を提案しています。当技術は、膜面だけに留まらず、インフレータブル構造やスペーステザー等の様々な柔軟構造物の解析にも適用し得るものであり、将来の発展的な宇宙構造物の実現に寄与するものです。

膜展開式軌道離脱装置の展開挙動のFEM解析動画

リンク

Link

株式会社中島田鉄工所 CubeSat衛星”FREEDOM”

株式会社ALE 人工衛星初号機(ALE-1)、軌道降下ミッション完了

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